島本理生さんの新境地を築いた「真綿荘の住人たち」

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恋愛小説家島本理生さんによる6編の中編小説による連作小説集である。「真綿荘」という奇妙な名前の下宿屋が舞台となっており、そこに棲まう5人の住人たちの、切なくも奇妙な恋愛事情が描かれている。

真綿荘の5名の住人とは、下記のようにユニークだ。

綿貫千鶴(恋愛小説家でもある大家)
真島晴雨(大家の内縁の夫で画家)
大和葉介(北海道出身の下宿の新入り)
山岡 椿(事務員。女子高生の八重子と付き合っている)
鯨井小春(大柄なのがコンプレックスの大学生)

「真綿荘」というネーミングは「真綿で首を絞める」という喩えを連想させて不気味であるが、大家と大家の内縁の夫が経営する下宿屋の名前とあれば、それなりに納得する。恋愛というものはおしなべて真綿で首を絞めるようなものだというメッセージを受け取ってしまう。実はそんなことも無くて、単なる遊びなのかもしれないのだ。作者はそんなこんなのエスプリを楽しみながら創作をしていたのではないか? そんな想像さえ抱かせてしまう。

住人たちの恋愛事情はそれぞれまちまちではあるが、世間一般の、所謂多数派とは距離を置いていて、尚且つそれぞれに少数派であるが故のはくがいを内包している。恋愛にまつわる様々なる痛みというものを内包している、この小説のポジションはとても鮮烈であり、とてもユニークなものだ。

若き恋愛小説家の新境地を築いた作品だと云えるだろう。