カニ味噌にまつわるエトセトラ

先日某居酒屋にて「カニ味噌」を食したのだが、箸は全然進まなく、ホッピーのつまみとしてはこれは低級ものなりと感じていたのだった。かといってその場所でご飯を注文するわけにも、或いは日本酒熱燗でちびちびやっていくわけにもいかずに、所謂まずい時間を過ごしていたのであった。

そもそもカニの味噌というのはカニを丸ごと食うときに必然的に遭遇するべき珍味であり、それを何匹否何杯もの部分ばかりを寄せ集めてみたところで、ホッピーのつまみはおろか、一般的メニューにもならないのだ。珍味が珍味たる所以は全体中の一部位としてのハーモニーとして味わうべきものなれど、そんなハーモニーを奏でない代物などは、本来の珍味とは云い難いのである。

そういえば「渚にまつわるエトセトラ」という歌謡曲の一節には、カニにまつわる以下のフレーズがある。

♪カニ 食べ 行こう
 はにかんで 行こう
 あまりにも 絵になりそうな
 魅力的な 白い ハッピービーチ

二人組デュオ「パフィー」が歌った4枚目のシングルで、そこそこ売れたのでパフィーはカニ業界の関係者からは神か仏かパフィー様かのごとくに崇められていると伝え聞く。作詞は井上陽水で作曲が奥田民生という当時のゴールデンコンビ。尊敬する陽水さんの作詞だとは考えにくかったのだったが、大ヒットした「アジアの純情」に続く徒花的陽水ワールドであったことは明らかであった。この詩がまた実にちぐはぐであり、バブル崩壊後の90年代後半の世相を反映させてもいた。渚へと向かったパフィーは過去のあれこれを吹っ切るようにして明るく乗り込んでいくのだが、彼女たちがハッピーなる渚でいかに大量のカニを食べたところで、残滓として堆積されるのは空疎な徒労感であったろうと想像されるのである。