リニューアルした新宿思い出横丁の「つるかめ食堂」を訪れ唖然

新宿思い出横丁の「つるかめ食堂」がリニューアルしたと聞いて訪ねてみた。

ところがどっこい期待とは裏腹に、久しぶりに暖簾とやらを潜って入ってみた新制「つるかめ食堂」は、小ぎれいにすっきりしたものの、かつてのつるかめらしさがまるで無くなってしまい、いとがっかり。何と云うこの不条理な光景なのかと、しばし唖然としていたくらいであった。

まずは「コの字型」のカウンターが無い。客(ほとんどが飲みに来客する呑兵衛たちだが)が店舗の人間と向かい合い、注文やら世間話やらを談笑していた空気はそこには無くなっていた。1階の敷地面積は変わっていないはずだが、ゆったりして小ぎれいになっただけで、店舗は狭く感じられた。

客層のことを述べる前に、客足は少ない。おいらが居た時間帯に出入りしていた客は10名に満たなかった。通りすがりと思しき4~5人の客が丼や定食やらに箸を付けて飯を食らっていた光景に遭遇し、時の流れのうつろいを淋しく感じていた。つまりはその場所は、かつてあった呑兵衛たちの憩いの場所とは様変わりしていたのである。

同店の名物「そい丼」を注文した。大豆が主役の丼であり、ひき肉と共にカレー味で煮込まれた具が御飯にのっている。そして隠れた主役がハムであり、この昭和的ハムの風合いが何とも云えない郷愁をそそる。味噌汁付きで、昭和の頃の食生活のままかのごとき500円と云う安さにも、回顧の気分をそそらせる。確かにそそらせたのだったが、かつてのあの元気だった頃の「そい丼」とはどこか違っていた。「バカはうまいよ」の幟が無くなっていたし、それより以上に、当時の調理していた人たちが亡くなってしまっていた。利口な人間にはうまいのか? 不味いのか? そんな突っ込みを受け止めてくれる人達が居なくなってしまったのだから淋しさもひとしおに積み上げられていくかのようだ。

かつては「つるかめ食堂」といえば思い出横丁のへそとも称されシンボル的存在だったが、今は違っていた。他の店舗は昭和の風情を残しているのに、この店ばかりがリニューアルして、得たものは何だったのだろうかと考えた。もしかして同店主は横並び的店舗のスタイルから脱皮しようしてリニューアルを敢行したのだろうかと? だがそんな試みはもろくも崩れ去ってしまったと云うことが見て取れるのだ。

2階も無くなっていた。仮店舗としての許可しか出なかったと云うのが理由らしいことを知った。2階が食堂として機能していた頃には、おいらは何回もその場所で遅い夕食を摂っていた。会社の同僚とはそこで一緒に食事と酒を摂っては会社や社会への愚痴や批判を口にしていた。そしてそんな愚痴や批判を「つるかめ食堂」の店舗の人達や店舗の壁や柱やその他諸々の空域の全てに吸収してもらっていたという気持ちを強く持っていた。そんな特別な場所空間が、小ぎれいな食堂にリニューアルしていたのを見ては、残念に思うしかないのである。

■つるかめ食堂
東京都新宿区西新宿1-2-7