「TPP亡国論」(中野剛志著)の結論としての「おわりに」を抜粋引用

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TPPへの参加など、論外です。

この本で申し上げたかったことは、結局のところ、その一言に尽きます。

第一に、これまで議論してきましたように、TPP賛成論には、基本的な事実認識の誤りがあまりに多すぎます。例えば、日本の平均関税率は二・六%とアメリカよりも低く、農産品に限っても、平均関税率約一二%は決して高いとは言えず、穀物自給率はわずかしかないほどすでに開国しています。TPPに日本が参加しても、日本の実質的な輸出先はアメリカしかなく、アメリカの実質的な輸出先は日本しかありません。アジアの成長を取り込むなどというのは不可能です。

そして、アメリカの主要品目の関税率は低く、すでに日本の製造業は海外生産を進めています。その上、アメリカがドル安を志向しているのですから、関税撤廃にはほとんど意味はありません。そもそも、日本はGDPに占める輸出が二割にも満たない内需大国であり、輸出に偏重すべきではありません。

第二に、TPP賛成論者は、経済運営の基本をあまりに知らなすぎます。本書をお読みになったみなさんにはご理解いただいたと思いますが、需要不足と供給過剰が持続するデフレのときには、貿易自由化のような、競争を激化し、供給力を向上させるような政策を講じてはいけないのです。デフレ下での自由貿易化は、さらなる実質賃金の低下や失業の増大を招きます。

グローバル化した世界では輸出主導の成長は、国民給与の低下をもたらし、貧富の格差を拡大します。内需が大きいが需要不足にある日本は、輸出主導の成長を目指すべきなのです。そして、何においてもまずは、デフレ脱却が最優先課題です。しかし、貿易自由化と輸出拡大の推進は、そのデフレをさらに悪化させるのです。

第三に、TPP賛成論者は、世界の構造変化やアメリカの戦略をまったく見誤っています。リーマン・ショックは、住宅バブルで好況に沸くアメリカの過剰な消費と輸入が世界経済を引っ張るという、二〇〇二年から二〇〇六年までのグローバル化が破綻した結果です。アメリカは、この世界経済のいびつな構造を是正するため、そして自国の雇用を増やすため、輸出倍増戦略に転換しました。TPPは、その輸出倍増戦略の一環として位置付けられており、輸出先のターゲットは日本です。

特に、アメリカは国際競争力をもち、今後、高騰すると予想される農産品を武器に、TPPによる輸出拡大を仕掛けてきているのです。大不況に苦しむアメリカには、アジア太平洋の新たな枠組みを構築しようなどというつもりはなく、その余裕すらありません。

要するに、TPPへの参加というのは、世界の構造変化もアメリカの戦略的意図も読まず、経済運営の基本から逸脱し、その上、経済を巡る基本的な事実関係すらも無視しない限り、とうてい、成り立ちえない議論なのです。TPP参加の合理的な根拠を探す方がよほど難しいのではないのでしょうか。

―――(以下略)―――