異才の作家、吉村昭さんの「味を追う旅」を読む

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数々の歴史小説や「記録小説」と称されるノンフィクション作品で知られる吉村昭氏は、全国津々浦々への取材で駆け巡っていた際に、地域の様々な料理やら酒を求めて堪能したらしい。旅と料理と酒をテーマに随筆を著してきたものが、「味を訪ねて」に纏められている。このたび、同書が文庫版「味を追う旅」として刊行されたことを知り、先日購入し、ちょびちょびと読み継ぎながら、本日読了した。

一読して、肩に力が入らない平易な記述で好感を持った。所謂「食通」等と呼び称される類の人間ではなく、毎日の日常の食生活の中における美味の追求というスタンスだ。だから、美味なものに金に糸目はつけないと云った人種とは対極にあり、日常的にありつける程度の料理や酒に対象を限っている。作家のスタンスとしてはなかなか見かけない、天晴れなものではないかと合点した。

吉村氏が旅したのは、沖縄、九州長崎、四国宇和島、その他東北、北海道、等々全国津々浦々に渡っている。おいらの出身地である群馬県前橋で食べた水沢うどんの旨さについても記されており、細かな取材力には敬意を払いたいと思った。さらには東京下町の伝統的食材や料理に対する考察には、現在の下町食文化にもつながる伝統を感じ取ってていたのだ。即ち食文化とは料理の美味のみについてではなく、提供する店舗や料理人や仲買人やらの多種類の人間の営み全てについてが対象の文化なのだということを、あらためて考えさせられる一冊であった。