村上春樹さんの不可解な最新作「木野」を読む(2)

月刊「文藝春秋」に掲載されている村上春樹さんの「木野」を此の数日間じっくりと再読した。同じ小説作品を近い期間を経て再び読むということは珍しい。そんな珍しい体験をこの「木野」が要求していたということなのだう。

村上春樹さんの最新作「木野」では様々な登場人物および人間以外の生物、アイテム等々が登場している。ざっと列挙するならば、先ずはとりあえずの主人公の木野、不倫がばれて別れることになる妻、店舗の引き継ぎで濃く交流することになるが元々長い付き合いの伯母、そして、カミタという不思議な登場人物。「神田」と書くが「カンダ」ではなく「カミタ」と称している、云わば裏世界との関係を仄めかすカミタは此の作品のある意味で主役級の存在感を示しているのであり、そんなこんなからもハードボイルドを担ぐ役者としてのカミタの存在が此の作品上では特段にクローズアップされているのだ。その他、木野が成り行きで情事を交わす女と其の愛人等々が物語を盛り上げている。

ちょいと本筋から離れるが、登場人物の他に重要な生き物としては、「木野」という店舗に愛着を持って来る灰色の野良猫や、猫が店を去っていった後に現れる三匹の蛇たちの存在が特筆される。ともに登場人物たちに負けず劣らずの存在感を付与されており、物語の構成において重要な役割を担っている。

数日前に一読したばかりの時には、「カミタ」の存在が全能の神の申し子のごとくに捉えられたのだが、二度目の読書体験を経て後にその思いは消されていたと云って良い。むしろ全能神の存在が此の世の中から砕かれていく様態が描かれているのかも知れないという思いにビジョンを変化させていったのである。ハードボイルド的登場人物としての全能神は、小説全体の世界観をリードすること、やり遂げることを志向しつつも、その非現実性や無力さに目覚めるのである。作品途中にて主人公こと木野の戸惑いが生じていくのは其の為であると考えられる。主人公が依って頼るべきヒーローの存在が頼れなくなることと同様に、物語のビジョンも破綻をきたすように進んでいく。頼るべき神話を持ち得ない現代の物語のビジョンが示されているのである。

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