やきとりのワンダーランド、東松山に出没

久しぶりに埼玉県の東松山を訪れた。目的はご当地名物の「やきとり」を食すること。この小都市には約百軒もの「やきとり屋」が密集している。それを称して「やきとりのワンダーランド」などと呼ぶグルメ本もあるくらいだ。

ここで提供される「やきとり」の材料は鶏ではなくて豚である。本来であれば「焼きトン」と称すべきなのだが、この土地柄では古くからの慣習で「やきとり」と云えば豚の串焼きを指すことになっている。またほとんどの店では、軽く塩焼きにしたものに特性の「辛味ダレ」を付けて食べるのが慣わしとなっている。また特に指定しない限り「カシラ肉」とねぎを刺して焼いたものがやきとりの代名詞である。店に入って席に着くと何も云わずに「カシラ」の焼きトン、おっと間違いだ、やきとりが運ばれてくる老舗店まであるくらいだ。好き嫌いはあるがこの土地では土地の流儀にしたがい個性的なやきとりを愉しむのである。ちなみに「カシラ」とは豚のほほの肉を指すが、程よく引き締まって味わいも濃厚だ。吉祥寺の老舗店「いせや」で出される「カシラ」は脂身がギトギトしていてあまり好みではないのだが、東松山の「カシラ」は下処理が上手にされていて食べやすい。同じ食材でも調理法でこれだけ違いがあることを知ったのである。

一番の老舗は駅から5分程度歩いたところの「大松屋」。店構えもしっかりしていて味も中々なのだが、客が順番待ちしていたり、勝手に料理が運ばれたり、ストップしなければひっきりなしに追加されたりと、落ち着かない。今日はそこはパスして、新規開拓を敢行。

何回か歩いた「やきとりロード」とは別のコースを散策していると「串よし」という小奇麗な店を発見。ここの扉を開く。やきとりの看板を掲げているにもかかわらず、メニューは豊富だった。1本200円と、東松山の相場に比べて高い値段設定に違和感を覚えつつ、躊躇わずに「カシラ」を注文した。味は申し分なく、特製たれも見た目ほど辛くなく甘味が効いていてなかなかのものだ。トマトか何かフルーツをアレンジしているのだろうか。だが折角の東松山散策にしては物足りなく、串数本を食べ終わると早々とその店をあとにした。何か物足りない思いを抱えつつ、下沼公園近くの小さな一杯飲み屋の暖簾をくぐった。入ると地元の呑ん兵衛がくだを巻く飲み屋なのだが、そこに地元名物「やきとり」があるだけで癒される。外来者には少年の冒険心を刺激する類いの異空間なのである。出会いと発見のスリルが、この東松山にはあることを再発見したのでありました。