寮美千子さんの「雪姫 遠野おしらさま迷宮」は遠野の物語を加速させる

 [エラー: isbn:9784874620670 というアイテムは見つかりませんでした]

今秋発行された寮美千子さんの最新小説「雪姫 遠野おしらさま迷宮」を読んで以来、遠野地方の方言に敏感に反応するようになった自分を感じている。東北弁の一つなのだろうが、とても繊細で、極めて情緒豊かな言葉と感じるのだ。わかるわからないの違いを越えて、遠野の言葉はとても懐かしい響きを漂わせている。「おしらさま」の物語もこの遠野の言葉を背景にして、鮮やかな舞台として記憶に染み込んでいく。

この小説の舞台になるのが岩手県の遠野。これまでおいらも何度か訪れたことのある遠野の町は、今では岩手山間部の中核都市だが、都市とは云い難い特別な磁場を発している特別な町である。民俗学者・柳田國男の「遠野物語」、あるいは写真家・森山大道の「遠野物語」の舞台として有名なのだが、寮さんの新作小説は、さらに鮮やかな風を吹き込んでいくかのようだ。

「オシラサマを相続して欲しい」という依頼を受けて、主人公の雪姫が辿る迷宮の物語。詳細はネタバレにも繋がるので避けるが、この地方の妖艶でありながら懐かしい妖怪が色々に出没するドラマの展開を辿りながら、ある種のカタストロフィーの愉悦とでも云うような感慨を抱いたのでした。

またこの小説の中には「ひっつみ」「割り干し大根」等のおいらの大好きな岩手の料理たちが、ピリリと光る脇役として登場していて、さらに物語世界に引っ張り込まれてしまったのでありました。