銀座奥野ビル「ギャルリーヴィヴァン」の「夏目漱石版画展」は一見以上の価値有り

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銀座一丁目の奥野ビル内「ギャルーヴィヴァン」では、20日(土)まで「夏目漱石版画展」が開催されている。

ご存知夏目漱石と云えば、明治維新後の混乱期に生を受け大正5年に没した、我が国の近代文学を代表する文豪である。そんな文豪が数多くの版画をものにしており、其の達筆なる所業が存在していたことはあまり知られていない。

今回の「夏目漱石版画展」は、大正11年から13年にかけて、夏目漱石のご長男夏目純一氏が監修した、漱石遺墨集全5巻のなかに入っていた木版画である。版の制作は当時美術作品の制作では、第一人者の伊上凡骨によるものを中心にしているという。一見、木版とは解らないほどの高度な職人技によって再現された漱石の水墨画は、改めて、漱石の魅力を深めるものとなっている。

夏目漱石の版画展を訪れて気付いたのであるが、夏目先生は自作へ「漱石山人」という署名を記していた。文学とはジャンルの異なる版画制作の世界においては、この「漱石山人」を用いていたと見られるのであり、此れは一驚ではあった。漱石の版画に掛ける特別な意欲を感じ取るに充分なのである。

「漱石山人」という署名についてはおいらのみならずに、漱石さんの後輩である文豪こと芥川龍之介さんがまたとても注目しており、例えば「夏目先生」という一文にて其の驚きを記しているのだ。

―――――(以下引用)

「夏目先生」

芥川龍之介

僕はいつか夏目先生が風流漱石山人になつてゐるのに驚嘆した。僕の知つてゐた先生は才氣渙發する老人である。のみならず機嫌の惡い時には先輩の諸氏は暫く問はず、後進の僕などには往生だつた。成程天才と云ふものはかう云ふものかと思つたこともないではない。何でも冬に近い木曜日の夜、先生はお客と話しながら、少しも顔をこちらへ向けずに僕に「葉巻をとつてくれ給へ」と言つた。しかし葉巻がどこにあるかは生憎僕には見當もつかない。僕はやむを得ず「どこにありますか?」と尋ねた。すると先生は何も言はずに猛然と(かう云ふのは少しも誇張ではない。)顋(あご)を右へ振つた。僕は怯(を)づ怯づ右を眺め、やつと客間の隅の机の上に葉巻の箱を發見した。

―――――(引用終了)

銀座奥野ビル「ギャルーヴィヴァン」の「夏目漱石版画展」は一見以上の価値有りなのである。

■夏目漱石版画展
2013年7/1~20日(土)
ギャルーヴィヴァン
東京都中央区銀座1-9-8奥野ビル1F
TEL 03-5148-5051