原田マハさんの近作「楽園のカンヴァス」は、絵画鑑定ミステリーというジャンルを切り拓いた

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原田マハさんの近作で山本周五郎賞を受賞した「楽園のカンヴァス」を読んだ。先日発表された今季の「直木賞」にもノミネートされており、今年度ナンバー1の評価も高い話題作である。

同書の装幀には、アンリ・ルソーの「夢」という彼の代表的作品がドンと大きく採用されている。注視していると左に全裸の女性が左腕を伸ばして何処かを指差している。彼女の表情やプロポーションはどこか不自然だ。女性の表現はリアリズムから程遠くデフォルメされており漫画的でさえある。また背景には楽園をイメージさせる樹林やら野生動物、野生の果実、等々がカンヴァスの中でひしめいているのだが、現実的イメージを突き抜けて夢想的なイマジネーションを徴表しているのだ。

そもそもアカデミックな美術の教育を受けてないルソーの作品について、欧米美術界の評価は二分されているようだ。「まるで技量の拙い日曜画家による作品」という否定的なものから「近代美術を大きく前進させた巨匠作品」というものまで、毀誉褒貶が極めて激しいのだ。

ちなみにこのポイントに於いて、作家の原田さんのルソーに対する肯定的評価は特別なものがあり、そんな情熱が物語を貫く底流として蠢いていることを感じさせるのである。

この作品とその架空の贋作(「夢を見た」という作品名)をめぐる美術関係者の謎解きを軸にして物語は展開し、近代絵画に於けるルソーの評価が、底流を流れる同ミステリーのテーマとなっている。

「夢を見た」という作品名の贋作に対しては、読み始めた当初はピンと来ない途方もない荒唐無稽なシチュエーションかと思わせたが、読み進めるにつれては、それもありなん。決して荒唐無稽ではない煌めくフィクションだと捉えることが可能となっていた。まさに絵画鑑定ミステリーというジャンルを切り拓いた意欲作品だと云えるだろう。ニューヨークのMoMA美術館にて勤務したことがあり、フリーのキュレーターの資格を持つ作家、原田マハさんが挑んだ、新しいジャンルのエンターティメント作品なのである。