公開中の映画の原作「妻に捧げた1778話」(眉村卓著)を読む

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「妻に捧げた1778話」を読んだ。現在、草薙剛と竹内結子主演でロードショー公開されている「僕と妻の1778の物語」の原作本である。新潮社から新書版「新潮新書」の1冊として出版されている。著者はSF作家の眉村卓氏。

癌を発症し「余命1年」と宣告された妻のために、毎日1話ずつ物語を書き綴ったという眉村氏の、約5年間(1778日間)を綴ったレポートと云う体裁をとっている。

同書中にて、妻のために書かれた1778編の中から19編が紹介されている。一応はショートショートの体裁なのだが、そこから外れて滲み出てしまう作家の心情が自ずからしのばれている。

とても不可能と思える作家の宣言ではあったが、宣言通りに毎日毎日1編ずつ、物語は書き進められていた。妻の看病と云う日課と共に、大阪芸術大学の講師としてのスケジュールその他を抱えての創作であり、驚異的な意志力を感じざるを得なかったのである。

日々感動し笑って過ごすことが、患者の「免疫力」を高めると云うことは医学的にも証明されている。作家、眉村氏はそうしたことも踏まえて、敢えて勤行に向かったのだと思われる。

まるでお百度参りかのごとき勤行ではある。ただ、「お百度」と云う言葉自体が「百日」という期限(余命)を連想されるのではないかと云う配慮もあり、「千日回峰行」という表現を用いて紹介するメディアも現れたと云う。現実に千日を越えて1778話を綴ったというのだから、作家本人も嬉しかったことなのであろうと推察する。

映画の設定に比較すると、原作本のほうは60年代の夫婦であり、イメージは異なっている。逆にみればそれ故に、長い歴史を感じさせる夫婦間のエピソードを読み進めることになっていったのだ。

妻の看病記の隙間に挿入されているショートショートの数々は、その時々の状況によって微妙な影響を受けざるを得なかったようである。そして1日1話という制約は、とても完成度の体物語を紡ぐことを容易にはさせなかったが、それだからこその、肉声がそのまま書き綴られた表現にも遭遇する。とても荒削りな、未完成のままの結末であるが、非常な精魂を込めた作品群に出会うことにもなってしまったのである。

これから近いうちに、同原作の映画も鑑賞したいと決めたのでありました。