村上春樹さんの新作「女のいない男たち」を読む(其の2)

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甘酸っぱい香りがぷんぷん漂う当書籍掌編小説のスタイルは村上春樹作品に特有のものではあるに違いないが、掌編集の中の「女のいない男たち」という作品に限ってみれば、春樹さん個人の肉声が詰まったあたかもエッセイのように語りかけてきたのだった。おいらにとっては不意打ちの如き想定外の驚きを伴って襲い来た体験ではあった。軽々とした物語を紡いでいる春樹ワールドとは異質の何か、小説世界のビジョンとはまた別種の世界観のようなものを訴えかけた作品のように受け止められていたのである。

そもそも本書籍にまとめられた作品を含む春樹さんの近作諸々に関しては、近い将来に春樹さんがノーベル文学賞を受賞し得るか否かの判断材料ともなる極めて重大な意味を持つ作品たちなのである。であるから尚更に、扱うテーマに関しては重大な要素を伴うものとなっている。誰かも知れぬ欧米出身のノーベル賞審査員たちの支持を得るものであるのか否かには否応にも関心を抱かずには居られないのだ。もしかしてこれらの春樹さんの近作が、軽佻浮薄な、浅薄至極な、或いはそれらに近しいという印象を与えてしまったならば、ノーベル文学賞候補作家としての春樹さんの評価をおとしめる材料にもなりかねないからである。そうなってしまったら身も蓋も無いと云うべきである。

「女のいない男たち」というタイトルに示されているように、近作にて春樹さんが追求しているテーマは「男と女」「恋愛」「性と愛」等々に収斂されていると思われる。此れ等のテーマ性がはたして、欧米出身の審査員たちの支持を取り付けることが出来るのか否か? いま此処にて発表される近作のテーマ性は、作家の評価に関してあたかも海中に沈まれつつ在る錨の如くに重くあり、評価を得る上でも甚大なものがある。

そんな村上春樹さんの近作における、まるでエッセイのようにも綴られた肉声に込められたものたちに対して、しつこくなるくらいに向かい合って検証してみたいと考えているのである。

(此の稿は続きます)