厚い雲の隙間から姿を見せた「金環日食」ショーに釘付け

何しろ先日からのマスコミ報道によれば、我国本州で金環日食が見られるのは129年ぶり、首都圏においては実に173年ぶりの天体ショーだということであり、万難を排してその貴重なショーを目に捉えようと、昨夜から些か気張っていたのである。

ところが朝起きて窓を開け、ベランダから東の空を眺めると、そこには分厚い雲の群れが立ち込めていて、とても太陽ショーを拝められる様な天候ではなかった。グレーの空の向こうに太陽は隠れており、日食が始まる時間が過ぎても、太陽は中々姿を見せようとはしなかった。TVニュースにて放映される日食の映像は九州鹿児島から始まってリレー式に捉えられていたが、予定コースの多くの地域では厚い雲に閉ざされているようではあり、おいらの居場所もまた、姿を見せぬままいわば素通りしてしまうのだろうと、半ば諦念とともにあった。昨晩用意した一眼レフカメラ、ミラーレスカメラ、日食めがねを傍らに置きつつ、ただおぼろげに光る隠れた太陽の方角を眺めながら、時は過ぎていった。

7時を回っても空も大地も重く暗く、諦めが落胆に変わろうとしていた。そんな時、厚く閉ざしていた雲の隙間から漏れるように、黄色い筋状の光が地上を照らし、その後数分間の間だけ、薄い雲のフィルターから覗かせるかのように日食の太陽が姿を現したのであった。天体ショーのクライマックスを直前にしたときの主役の登壇に否がおうにもテンションは高まり、慌ててカメラのシャッターを押していた。厚ぼったい衣装を脱ぎ捨てつつその熱い柔肌を薄いベールの先に露出するかの演出に、気持ちは上ずっていたと云えるのかも知れない。

標準ズームレンズのミラーレス機で捉えた金環の太陽は、小さいながらもくっきりとした黄金のリングを描いていた。だが望遠レンズを装着した一眼レフ機の映像は、白く拡散した光が散らばるばかりで、リング状の姿を捉え得なかった。オート露出に頼った為の露出ミスであることに気付いてマニュアル露出設定に切り替えたが、捉えた太陽はすでに「金環」の左の環を欠いてしまっていたのであった。

青い空に白い太陽の金環ショーを想像していたのとは全く異なった光景ではあり、それが却ってドラマティックな印象を植え付けてくれたのである。