本屋大賞ノミネート作品、沼田まほかるさんの話題の一冊「ユリゴコロ」

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2012年の「本屋大賞」にノミネートされ注目を浴びている、沼田まほかるさんの「ユリゴコロ」を読んだ。

「ユリゴコロ」という語彙は一般に存在しない作家の造語であり、「拠りどころ」に起因している。「ユリゴコロ」というタイトルによる4冊のノートに、読む者を驚愕させる内容の手記を残していた。その手記は「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とちがうのでしょうか。」という一文から書き進められている。この手記の内容自体が小説の重要部分を占めている。それを主人公の亮介が偶然にも発見することから物語が展開していくのである。

精神的な病を患っていた手記の筆者が、精神科の医師に「ユリゴコロ」という言葉を何度も浴びせられていたというくだりがある。実は「ユリゴコロ」ではなくて「拠りどころ」であったということで手記の筆者も合点するのだが、物語のその後においても「ユリゴコロ」という語彙は云わばキーワード的なものとして存在していく。不思議な語感を残し、読者を特異な世界観へと誘っていくようでもある。

殺人願望という、幼児期からの衝動にとりつかれた内容の手記、しかも家族の誰のものかは判らないまま、何やら怖ろしい記述内容が事実かフィクションかも判然としないまま、主人公の日常のドラマと共に、同時進行的に手記の内容が明らかにされていく。ミステリー小説を読み慣れている訳ではないおいらにとっては、そんなプロットの展開には興味をそそられることは無かった。アマゾン等の読者評では「途中で結末がわかってしまった」等々の評が散見されたが、この作品もそうしたジャンル作品の一つなのかと理解したという程度の認識である。

手記内容が事実か? 或いはフィクションか? という点については、物語の中盤くらいで明らかにはなるのだが、それと反比例するように、小説世界への信憑性は薄らいでいったという思いが強く残った。無理矢理至極のプロットとでも云うのか、何だか無茶振りとでも云いたくなる後半の展開へとなだれ込んでいくのである。

複雑に絡み合う家族関係や特異な血縁の匂いが横溢し、それはそれで刺激的なのだが、これもまた、特異なフィクションでしかないという思いを強くしていたのであった。