70年の封印を解いて刊行された「ルパン、最後の恋」は、シリーズ最後の遺作に相応しい面白さ

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作家モーリス・ルブランが没後70年となる昨年に出版された、ルパン・シリーズ最後の作品である。我が国でも昨年9月に翻訳出版され、ルパン・マニアの関心を集めている。ブランが同作品執筆の後、病に倒れたこと等から、作家の息子の意向により長らく封印されてきたといういわくつきの1作であり、それが孫娘による原稿発見による刊行に至ったという。ある種、未完の要素もあるが、マニアにとってのみならず推理もの愛好家にとっての必読の書である。内容的にみても、まさにルパン・シリーズ最後の作品に相応しいと云えるのだ。

設定は、現役引退、隠居したルパンが身分を隠して、最後の冒険に繰り出していくものとなっており、晩年を彩る美女との恋のやりとりもあり、推理ものとは異なるテーマで楽しませてくれる。怪盗紳士ことルパンの晩年の姿が垣間見え、彼の人生観、世界観が吐露されるくだりがある。例えば敵の一人に対峙したとき、ルパンとの間に以下の台詞が交わされている。

―――――(以下引用)
「四つの障害に直面したが、そのうち三つは片付けた」
「四つ目は?」
「あんたさ」
「お気の毒さまだな。苦労するぞ」
「わかってるとも。おれはシャーロック・ホームズと組んだこともある。ホームズがこう言っていたよ。《アルセーヌ・ルパンとやり合う羽目になったら、勝負はあきらめろ。初めから負けは決まっている》ってな」
―――――(引用終了)

コナン・ドイルによって生まれたシャーロック・ホームズの名が唐突に出てきたのに驚いたが、名探偵ホームズ以上の天才がルパンだと、世界中の探偵小説愛好家たちに宣言したという訳である。シャーロックのファンにとっては怒り狂うやも知れぬ台詞を、いとも簡単に述べさせてしまうドイルの自由闊達さが、出版業界のタブーに抵触しているともとれるのであり、長らく「封印」されてきた原因の一つなのではないかとも思えるのだ。