本屋大賞第1位「謎解きはディナーのあとで」(東川篤哉)

[エラー: isbn:9784093862806 というアイテムは見つかりませんでした]
本屋の書店員による投票で受賞作品が決まるという「本屋大賞」に、本年度は「謎解きはディナーのあとで」が選ばれたというので、少々遅ればせながらに読んでみたのです。

一昨年の受賞作品、湊かなえ氏の「告白」の感動を体験していたので期待度は大きかったが、しかしながら読後感としてははなはだ期待外れと云うしかなかった。

先ず第一にこの作品は、筒井康隆氏の「富豪刑事」にヒントを得て創作されているのだが、そのパクリ度の凄まじさは尋常ではない。先達の作品に感化されたとかインスピレーションを得たとかというレベルではなくして、良いところをそっくりと盗んでしまったというくらいのものなのだ。

若手美人女優こと深田恭子の主演でTVドラマ化されヒットしたことから、この手のシチュエーションが大衆の嗜好をキャッチするだろうという計算高い目論見があったことが推察可能である。「富豪刑事」の初出が連作短編集であったが、この本の体裁もまた同様の連作集の形をとっているのだから、徹底しているというのか、えげつないと云うべきなのか…。

しかもこの作品集はといえば、筒井先生の作品のようなスケールの大きな諧謔的の視点は視ることも出来ず、あるのはみみっちい「ユーモア」の数々でしかない。書店員がこの作品のユーモアを褒め称えたことから受賞に至ったということのようなのだが、この程度の「ユーモア」に大騒ぎする書店員の感受性のレベルの低さには、些か驚かされたと云うしかないのだ。

登場人物は、深田恭子のようなお嬢様(宝生麗子)、花形満を俗化したような馬鹿警部(風祭警部)、そして唯一の切れ者の執事(影山)の3人による3者3様の推理を中心に展開していく。短編連作のそれぞれにこのようなシチュエーションがしつこく描かれていく。まるで読者を馬鹿にしているのではないかと感じられるくらいにしつこくそれは繰り返される。犯人や容疑者達の生態も描かれてはいるが、極めてそれらが薄っぺらいのだ。書店員達が絶賛しているというミステリーのレベルはあまり高くは無い。ミステリーマニアではないおいらにもそのくらいのことは判断が出来るのだ。

通常、ミステリーをクライマックスにかかって読み進めるうちに、読み進むスピードがアップしていくものだが、この本ではそんなウキウキ感も感じ取ることが無かった。却ってそのワンパターン的シチュエーションに飽き飽きする気分に蔓延させられたのだ。

結局のところ、この作品が「本屋大賞」なる賞を受賞したという話題性ばかりが先行し、売れ行きは100万部を突破して上々なのだという。書店員の多くがこの程度の「ユーモア」に飛びつき支持し、それを大手マスコミが後生大事に取り上げるという馬鹿げた構図が、いつの間にやら出来上がってしまったということなのであろう。