牛の第二の胃袋「ハチノス」をトマトで煮込んだ「トリッパのトマト煮」

牛の第一の胃袋を「ミノ」、そして第二の胃を「ハチノス」と呼ぶのは、牛モツ愛好家にとっては常識である。串焼き屋やモツ焼き屋ではよく見かけるメニューである。だがこれをトマトでじっくり煮込んで仕込まれたという珍しい料理に遭遇したので、ここに記録しておきたい。

文字通り、日本語の「蜂の巣」に似ているということから付けられた名称だとされるが、これをイタリア読みでは「トリッパ」と云うのだ。そのままではとても食用に出来ないハチノスの部位をよく洗い下茹でをして、その後でトマト、ニンニク、ワイン、等々のイタリア風にじっくり煮込んで仕上げていく。イタリアでは結構ポピュラーなイタリア料理なのである。

そもそも牛モツの中でも「ハチノス」は独特の食感が特徴だ。そう硬くないのに、何度も噛み切ろうと試みても噛み切れない。中にはゴムが混ざっているかと疑わせるくらいにしぶとい食感なのだ。グロテスクな見た目の風貌とあわせて、特殊な食材であることを印象付けている。

第二の胃袋としてのハチノスの役割は、消化よりもむしろ発酵なのだという。だからここには消化液はほとんど無いのに加えて食物の発酵を促す成分が充満しているのだという。だから、綺麗に洗浄してボイルしなくては食用には成り得ないのだが、それでも人間がこの部位を食用に供してきた理由に、部位の巨きさが挙げられるのだ。

捨てるのにはもったいない、そんな「もったいない精神」が食用化をもたらした、云わば花形なのであると云えるのかもしれない。