映画公開を控えた吉田修一の「悪人」を読む

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今年9月11日よりロードショー公開される「悪人」の原作本を読んだ。朝日文庫から上下2冊のセット本として販売されている。著者は吉田修一。2002年の「パークライフ」という作品で芥川賞を受賞している。2007年に初版発行されたこの長編小説「悪人」は、朝日新聞夕刊の連載小説として執筆された作品で、大佛次郎賞と毎日出版文化賞をダブル受賞しており、話題の作品でもあった。

「話題の作品」と書いたが、実は先日文庫版を初めて手に取り読み進めていたのだが、中々ピンとこない。とても読み難いというのが第一印象なのだ。全くと云ってよいほど感情移入することができない。2冊セットの長編とはいえ、これだけ読みこなすのが苦痛に感じられる小説作品というものも少ない。

多用される「九州弁」の会話は地方色豊かであり、いかにもローカルな設定を狙ったものと覚えるのだが、その反面で関東出身のおいらにとっては読み難く苦痛でもある。もっと直截的に述べるならばかなり耳障りなものでしかない。一面でプロットばかりが強調されるかのような描写が積み重ねられ、そればかりが読書体験の澱みのように堆積されていく。決して望むべき類いの読書体験ではない。気持ちよく好奇心を発揮させていくなど不可能であり、著者の一人相撲につき合わせられていくのは興ざめだ。

作家が「神」の視点を得て作為的、恣意的にプロットをつくりあげるという手法は、もはや19世紀に否定されたものであり、21世紀の今日においてこんな手法がまかりとおっていることは残念である。芥川賞をはじめ文壇の数々の賞を受賞した作家の作品として、多少の期待を持って最後まで読み進めたが、これだけ読書が徒労に思えたことも珍しい。我が国の文壇というものが、まだまだ閉ざされた一群の人間達による偏屈な集団であることを示してさえいるかのようだ。

9月に公開される同名映画を観に行くかまだ決めてないが、多分DVDなどで鑑賞することになるのだろうと思う。主役に妻夫木聡と深津絵里、脇役に岡田将生、柄本明、樹木希林、新人の満島ひかりといった役者が演じている。役者の人選は悪くない。