ハードボイルドはあり得ない綿矢りささんの「亜美ちゃんは美人」

[エラー: isbn:9784163809502 というアイテムは見つかりませんでした]

綿矢りささんの新作小説集「かわいそうだね?」には、もう一つ「亜美ちゃんは美人」という作品が収録されている。作品の完成度やストーリーの勢いやらりささんらしさやらでは表題作品に一歩を譲るが、このサブ作品も中々の力作であり、りささんの作家活動の今後に期待を抱かせる出来栄えであるので、ここに紹介しておきたい。

美人のさかきちゃんと、さかきちゃんよりもっと美人の亜美ちゃんの二人の主人公の物語。さかきちゃんは亜美ちゃんの友達だが、実は亜美ちゃんのことが嫌いだという、云わば女の「悪意」にも近い心情が展開されていく。

そしてもう一人の重要登場人物が、亜美ちゃんの彼氏の問題児こと崇志君だ。いかがわしい職業人であり、態度も常識はずれてでかくあり、とても美人の亜美ちゃんには似つかわしくないのだが、男性経験豊富な当の亜美ちゃんが、初めて好きになったというくらいに惚れてしまったという、云わば悪男の典型。元の級友やら家族やらがこぞって二人の「

結婚」に反対している中で、さかきちゃんがとった行動がまた出色なのだった。女同士の「好き」と「嫌い」の狭間に揺れ動いたそのときのさかきちゃんの心情に思いを仮託しつつ、おいらはまた別の思索にふけっていたのだった。

すなわち当小説のプロットにおける「美人の中の美人」こと亜美ちゃんは、りささんの化身ではなく別の女性だったのか? と…。とすれば、「美人の中の美人」こと亜美ちゃんよりは劣る美人のさかきちゃんの視点から、この小説のプロットが出来上がっているのだろうと…。

とても可愛く美人小説作家、綿矢りささんの立ち位置について、あれこれと詮索することにも事欠かないのであり、綿矢マニアにとっては必読の作品なのである。