自費出版を取り巻く現代人のいびつな姿を描いた百田尚樹氏の「夢を売る男」

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出版という業界の中でも特に「自費出版」と呼ばれる界隈を舞台に、ベストセラー作家を夢見る素人作家たちと出版編集者たちとのやりとりが展開されている。主人公の出版部長、牛河原勘治の周りには、自分の本を出したいという多くの人間が集まってくる。作家志望、市井人のエッセイスト、自意識過剰な大学教授、等々と彼らの肩書きは様々だが、彼らはともに「夢を見る」という共通性を有しているのであり、そのための自著発行を志向している。実質的な自費出版であるため、200万円かそれ以上の費用が必要となるが、夢を見るための費用としての必要経費であるかのようだ。

本離れが云われている状況下ではあるが、相変わらず出版への憧れはまだまだ強いと見え、膨れ上がった自意識や自己主張を行う受け皿となっている。物語としての同著には、それほどうなるべきドラマツルギーを感じ取ることはなく、いびつな欲望を抱く現代人のすがたを示すだけに終始していたのが残念ではあった。