プリンタの不具合に見る、ソフトウェア至上主義的ものづくりの陥穽

使っていたプリンタがついに云うことを聞かなくなり、新しいものを購入。本日その機械が届いたので、設定やらソフトのインストールの格闘を行なったのです。キヤノンかエプソン製を購入するつもりで量販店へ向かったが、在庫がなかったりという事情から、ヒューレットパッカード社製を購入する羽目になった。店員からいろいろ云い含められたことも選択の一因となっている。まあちゃんと動いてある程度綺麗にトラブルがなければ、メーカーはどこでも良かった。

ところが実際にテスト印刷してみると、墨版しかプリンとされない。グレー画像が印刷されるばかりだ。コピーテストもまたしかりである。何度試みても同様なので、カスタマー・ケア・センターに電話した。土曜日だが担当者は居てそれなりに丁寧に対応してくれた。

マシンの再起動から始まりインクの再チェック、設置方法の確認、機械部分のクリーニング、等々と電話先のケア担当者の云う通りにチェックを続けていったが、結局のところ問題解決には至らず、同梱されたカラーインクに問題がありそうだと云うことになった。「正しいインクを再送するのでそれで試して欲しい…」との説明を聞かされた。つまり今回同梱されていたインクは「誤って」送られてしまったものだと云うらしいのだ。この間50分近い時間を要してしまったのだ。

もう少し解説すると、設置して最初のインクは「Setupインク」という特別な種類であり、そこには特別なソフトがインプットされているらしい。それが誤って「Setupインク」以外の普通のものが紛れてしまったとの説明だ。純正品であれ模造品であれ、そんな特別なインク以外は受け付けないのだと云う。

だがしかし、何故にそんな特別なことをする必要があるのか? あえて質問もしなかったが合点がいかないのだ。全く不可解でならないのだ。一つ考えられるのは同業他社製品に対するガードだろうか? ちょっとした付加価値をソフトウェア上に加えたことで、簡単に他社に盗まれることを防いでいる? あるいは公表はされないがユーザーに対するガードが仕組まれているのかもしれない。

問題なのはそうしたソフトウェア的トリックを施すことにより、実際に使用するユーザーとマシンとの決定的な距離感が生じていることだ。利用者にしてみれば余計な「ブラックボックス」の存在により、マシンに対する愛着を持つことが出来ない。それどころか、どこか割り切れない、そして計り知れない気持ちの悪さに囚われてしまうのである。

ユーザーがうかがい知れないところで実はマシンのソフトウェアに支配されている。そうした現実は我々が知らないところに根を伸ばしつつある。ソフトが人間を支配するという関係性は、このような極めて身近な機器利用の現場で、既に現実となっていることを思い知ったのである。けだし悪しき未来を思わざるを得ない体験なのであった。